全国の自治体職員の皆さま、はじめまして。

合同会社創発研修ラボ豊島屋の豊島英明と申します。

もともと神戸市職員だったのですが、市役所勤務30年を機に独立し、地方自治体の皆様向けの研修会社を立ち上げました。

きっかけは、“経営品質”との出会いでした。

市役所在籍時代、係長だったときに行革担当の部署に配属されました。阪神・淡路大震災を経験し、極度の財政危機に直面する状況にあって、施策上の選択と集中を進めつつ、それでも職員の活力と市民サービスの維持向上を両立するにはどうすればいいかを悩み苦しんでいたとき、何とかヒントを得たいと考え、全庁的に有志係長が集まる研究会に参加しました。

その研究会では、今後の行政経営のあるべき姿について、様々な部署・職種の係長10名が侃々諤々と議論を連日続ける中、実に様々な意見が出ました。

「いつも財源にばかり目が行くのだが、そもそも我々は市民ニーズを理解しているのだろうか」「職員のモチベーションはどうしたら上がるのか。震災で疲弊してしまっている」「こんな混乱時こそ、リーダーシップが大事だ。しかも各階層でのリーダーシップが求められる」「選択と集中が大事といいながら、判断にデータがうまく使えていない。どうすれば情報マネジメントを効果的にできるだろうか」「そもそも行政とは何なのか。使命は何か。いつまでに、どこへ向かいたいと考えているのか」

議論は尽きませんでした。どの意見も至極もっともです。ただ、切り口が多すぎて雑然としている。それぞれのアイデアは、ひとつの組織経営全体の中の特定部分に着目した内容なのだから、それらを統合的に理解できる枠組みがあるはずだが…

そんな議論に疲れ果てたある日のこと。朦朧としながら立ち寄った書店で、ふと目にとまった本が、“経営品質”について書かれた本でした。その場で手に取って読み進めるうちに、思わず「これだ!」と叫びそうになりました(今でもその瞬間の衝撃は鮮明に覚えています)。

そこには、組織経営を診る各種の視点が、相互の関係性も明らかにしつつ、見事にまとめられていました。将来の理想的な姿を見定め、そこから現状を認識・分析し、理想と現状のギャップを埋める道筋を構築する。そして、理想的な姿に近づくための実践のあり方を8つの視点で考える。その8つとは、リーダーシップ、社会的責任、戦略の策定と展開、組織と個人の能力向上、施策の相手方の理解、業務プロセスの向上、情報マネジメント、結果の測定-。

なんと、研究会で議論し、頭を悩ませまくっていた多数の経営パーツが、見事に統合されているではありませんか。「これこそ、今後の市役所経営の軸となるべきフレームワークだ」そう確信した係長たちは報告書をまとめ、市長にプレゼンをし、実際に庁内で経営品質向上活動を展開していきました。

この経営品質向上活動とは、日本経営品質賞委員会が編集・発行している『日本経営品質賞アセスメント基準書』(主に民間企業向けに書かれています)を行政向けにアレンジしたものを職場で共有し、職場内で対話を重ねて、仕事の質を高めようとする活動です。

おおむね、課の単位で、自発的に取り組む職場を募って展開していったのですが、その効果は目を見張るものがありました。下記が、当時の取組職場から出た感想です。

「仕事の出発点である、職場の使命が、これほど曖昧だったとは」

「戦略もなく仕事をしていることが分かった」

「市民が主役といいながら、役所本位での仕事の進め方をしていることが明らかになった」

「職員に元気がなければ、いい仕事ができないことを、つくづく実感した」

「経営品質を通じて、民間経営と同じ概念を共有できた。つまり、民間と共通言語を持てたので、民間企業の方と話しをする際に、深く理解できるようになったし、行政で応用できるポイントを察する嗅覚が鋭くなった」

「経営品質向上活動に取り組む職場同士で、相互の学習が進んだ。同じフレームワークを共有しているので、議論していても、どの部分のこと(戦略レベルか、日常のオペレーションレベルかなど)を議論の対象としているかがすぐに分かったから。自治体でも民間企業でも、この経営品質向上活動が広がっていけば、相互に学ぶ機会が増えて、組織学習の相乗効果が得られるのではないか」

このような数多くの気づきを得た職場では、その後、着実に仕事の質を高めていきました。そして当時、先行的に経営品質向上活動に取り組んでいらっしゃった他自治体の方に話をお聞きすると、やはり「経営品質による気づきの力は本物です」とのことでした。

そのとき以来、私は、「全国の自治体が、この経営品質の考え方を知り、仕事に活かすことができれば、この国全体がいま以上に元気になるきっかけになるのではないか」「いつの日か、自分も、経営品質を通じて、もっと社会のお役に立てるような活動をしていきたい」と考えるようになりました。

そして時が流れ、元号も新しくなり(それはたまたまですが…)、研修会社の設立を皆様にご報告するに至った次第です。

さらに今般、『日本経営品質賞アセスメント基準書』 の行政向け解説テキストを作成し、公益財団法人日本生産性本部経営品質協議会様にご相談しましたところ、「行政の皆様の理解が進む価値あるコンテンツ」とのご理解をいただき、全国自治体の皆様がWEBページで電子データを購入できるようにしていただきました。そのタイトルは『行政の質を高める8つの基準』です。

行政や民間での豊富な実践例も盛り込みながら、できるだけ分かりやすく記述したつもりなのですが、それでも、「この概念をもっと突っ込んで理解したい」「多岐にわたる項目の中で、とくにポイントとなる部分を知りたい」など、さまざまなリクエストをお持ちになるかと思いますので、このテキストの続きは、ぜひ実際に皆様とお会いして、話し言葉でご説明できましたら幸いです。

経営品質は、“終わりのない旅”ともいわれています。我々を取り巻く環境が、ものすごいスピードでどんどん変わる中で、経営のありかたも進化を止めることはないからです。ただ、どんな状況にあっても、真摯な対話を重ね、職場がさらに元気になり、理想の姿に近づいていこうとする営みは、本当に尊いものと思います。小生の今後の活動が、全国自治体の皆様にとって、少しでもお役立ていただけるようでしたら、それにまさる喜びはありませんし、皆様との対話を通じて、私自身ももっと勉強させていただきたい思いでいっぱいです。

長いご挨拶になってしまいましたが、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
皆様とお目にかかれます日を、心待ちに致しております。

合同会社創発研修ラボ豊島屋 豊島英明 拝