経営品質向上活動とは、各職場で、『日本経営品質賞アセスメント基準書』ないしは、今回作成した『行政の質を高める8つの基準~アセスメント基準書読み方ガイドブック』に記述されている様々な問いかけと向き合い、職場スタッフの間で対話を重ね、仕事の質を高めていく活動のことをいいます。

この活動に取り組むメリットは、大きく3つあります。

【1】組織の強みと改善領域がわかる!

アセスメント基準書のいちばん良いところは、仕事の質を高めるために重要な複数の視点が、相互に有機的に関連付けられながら、「問いかけ」の形で掲載されていることです。

「理想的な姿は何ですか」「その理想からみたとき現状をどう認識しているのですか」「理想と現状を埋めるための道筋をどう描いているのですか」「そのために組織内外の資源をどうやって活用するのですか」「理想的な姿に近づくためにリーダーとして何をしているのですか」「そもそもお役に立とうとしている相手は誰なのですか」「その人たちのニーズをどうやって理解しているのですか」「理解したことを踏まえて、実際の業務の遂行にはどう反映しているのですか」「その業務遂行に必要な能力とは何なのですか。職員の能力とモチベーションをどうやって高めているのですか」「職員をこう育てたら、業務がこう改善されて、その結果、お役立ち相手の満足や納得にこうつながって、収支改善も図られることになる、といった一連のストーリーを描いていますか」「さまざまな活動の結果を、どうやって測定しているのですか」「結果から、何をどう振り返り、そこから何を学んでいるのですか」

こんなふうな感じで問いかけがどんどん出てきます。人間ドックの問診票ならぬ、組織ドックの問診票のようなものです。これら一つひとつの問いかけに対して真摯に(ウソ偽りなく)向き合い、職場で対話を重ねる過程で、数多くの深い “気づき” が得られ、自分の組織の強みと、改善すべき領域が浮かび上がってきます

そして、強みをどう伸ばし、課題をどう改善するかを、組織で共有し、次なる改善・革新につなげていくと、組織は着実に、一段ずつ成長の階段を上っていくことができます。他者から指摘を受けるというのではなく、「問いかけ」が起点となって、自ら気づくからこそ、「よし!もっと組織をよくしよう。仕事の質を高めよう」というモチベーションが生まれるのです。

【2】職員一人ひとりに“考動”軸ができる!

実際に、経営品質向上活動に取り組んでみるとよく分かるのですが、仕事で何か困ったときとか、何か新しいことを生み出そうとする際に、自分の中に、「考える軸ができている」ことが実感できるようになります。アセスメント基準書が示すフレームワークが自分の頭脳にインプットされてきますので、例えば、期待していた結果が生まれなかったら、その不具合の原因は、「結果」を生み出した「方法」にある、更にその方法を因数分解したら「戦略」と「組織」と「業務」とに分解できるから、どこがまずかったのか順を追って考えてみよう、とこんな感じになってくるのです。つまり、思考の軸がぶれなくなる。思考の軸がぶれなくなると、行動の軸もぶれなくなる。こんな実感ができてくるのです。この安心感たるや、なにものにも代えがたいものがあります。ましてや、職場みんなで、この考え方の軸、行動の軸が共有されれば、組織力・チーム力の向上は計り知れません。思考と行動の軸、すなわち「考動軸」が持てると、仕事のみならず、人生を歩む軸までぶれなくなるような実感がわいてきます

【3】民間事例にもっと学べるようになる!

日本経営品質賞のアセスメント基準書は、もともと民間企業向けに書かれたもので、その経営の善し悪しをみる視点を整理したものが、アセスメント基準の「フレームワーク」と言われているものです(下図)。

(出所)経営品質協議会ホームページ

『行政の質を高める8つの基準』の「行政&民間の実践事例編」をご覧いただくと、すごく実感していただけると思うのですが、フレームワークを理解できれば、民間と行政の、それぞれの経営活動をみる共通の枠組みを持つことになりますから、「着目すべき視点」が、自分の頭の中に生成されるのです。

たとえば、「うちの組織では、市民満足度調査をこんな方法でやっているけど、民間では顧客満足度調査をどんな方法でやっているのかな(カテゴリー5)」「うちの組織では、局部長の方針を、各課・各係にこんなふうに展開しているけど、民間ではどんなふうに全社方針を個人の実行計画にまで落とし込んでいるのかな(カテゴリー3)」「人材育成では職員の研修受講とかがあるけど、そもそも民間ではどんな考え方とやり方で人を育てているのかな(カテゴリー4)」と、こんな感じで民間企業経営を学ぶ視点ができてくるのです。頭の中に、フレームワークが入っていたら、明確な問題意識をもって民間事例をみることができるようになります。

すると、日々の仕事でも、民間の方々とお話しする機会があれば、「あ、この話は、あの視点のことだな!」とピンとくるようになりますし、その視点に沿った深堀りした質問を民間の方に投げかけることができますから、その質問へのお返事をいただいて更に学べて、自分の組織でも活かすことができるようになります。この効果はものすごく大きいです。職員個人の学びと組織学習につながるからです。

もちろん、民間事例から学び取る力が向上するだけでなく、他自治体の活動に着目する視点も明確になりますから、自治体相互の学習という面でも大きな効果があります